チラシの裏のメモ書き

嘘と本当もあるちゃんと言えないブログ

片想いの終わり その3(書きかけ)

 再び高田を見かけた。病院から、帰るバス停から歩いてきた。病院にお見舞いに行って、帰ってきたのだろうか。表情が抜けている。なにかあったのだろうか。声をかけるのを、ためらわれた。

少しして、相手が気づいたようで声をかけられた。
「こんにちは」
そこには、憔悴の表情はない。何かを決めたような、そんな顔があった。
水やりの手を止めた。
「こんにちは。病院の帰りですか?」
「ええ。少し、お話を聞いていただいて良いですか?」
高田からの頼みだった。ビックリした。彼の話を聞いてみたいと思った。

「ちょっと、待っててくださいね」
三和は、店の中に入ると結崎に「すみません。少し店を空けますが、構いませんか?」と聞いた。
結崎は外の高田を見て、三和を見て口を開く。ちょっとの間だった。
「時間がかかりそうだから、今日はもう、あがってもいいわよ。」と言う。
ビックリした。
「え、でも…」
「話があるのでしょ。最近、顔色が悪いの、彼も関係があるんじゃないかな。ちゃんと話をつけて、ちゃんと元気になってから、仕事に来なさい。花屋の店員が、悲壮な顔をしていてどうするの。」
そんなにダメな顔だったろうか。有無を言わさぬ言葉に気圧され、三和は「すみません。帰らせて頂きます。お疲れさまでした」と帰った。

高田は、外で待っていた。三和は「お待たせしました。今日はもう、お店に休みを頂きました。どうしましょうか。」と伝えた。
高田は、おろおろともしていた。
「じゃあ、話せそうな場所に行きましょうか」
 少し歩くと、商店街があり、細い道の中には路地が広がっている。路地を歩くと、ぽつねんとお店がたっていたりする。三和は、散歩中に見つけた、お店に彼を案内した。
そこは、とても落ち着いた場所だった。お店は開いているのか、いないのか、わからない。ただ、美味しい珈琲をいれてくれる。ゆっくり、ゆっくりと豆が焙煎されていく。そんな音を聞きながら、いつも、コーヒーを頼む。ゆっくりと、味わう。初めはブラックでと、店長さんから言われた。ブラックコーヒーは飲むのが苦手だった。三和は、朝が弱い。眠りが残っている。仕事に支障が出そうな日に、無理やり自販機の缶珈琲を買うのが習慣になっていた。グイグイと、缶珈琲を一気に胃のなかに流し込む。そうやって、目を冷ましていた。だいたい、そういう日は1日具合が悪い。我慢していて、良くない。翌日もきちんと、眠れない。だから、珈琲は苦手だった。
 三和はぼんやりとお店の店長の手を眺める。高田は、話さない。沈黙だが、特に嫌な沈黙ではないと思う。
外は雨が降ってきた。ガラス越しに、雨粒があたる。カタカタと、風が扉を揺らす。小さな音がする。
お店には、女性の歌声が流れている。店長の好みなのか、いつも、違う音楽のあとにこの歌が流れる。
 隣を見れば高田が泣いていた。少しおろおろしてしまう。だが、心の中の一部分が高田の静かな涙は絵になるなと、思うのだった。
 泣いても、女性的な顔にはならない。なんとなく、絵をみている気がした。
三和はそっと、ハンカチを差し出した。何も言わない。店長も、見て見ぬふりか、見守っている。話し出すのを待たない。ただ、隣に居た。居心地は悪かった。けれども、逃げ出そうとするお尻と全身を、椅子にしっかり、固定していた。昼間とはいえ、他のお客が来るかもしれない。少しでも、彼を目につかない位置にいかせた方がいいのではないか。そんな風に思った。店長になにかをいいかけて、何も言わなかった。察したのか、店長がclauseという看板をかけに行っていた。店のガラス扉が閉められた。カーテンもひかれた。
 高田は、泣いている。嗚咽が漏れてきた。まるで、初めて泣く赤子のように苦し気だった。息を吸い込もうとして居た。泣くのは慣れていないのかもしれないと、思う。
………
高田が話した。
 母が病気で、治らないこと。前から病気だったが、母との確信があり、会いに行かなかった、と。

 病院は必要だけど、建物はいらない気がした。隔離されることで助かる命もあるかもしれないけど、半分社会から隔絶されていて、老いが進む気がしている。病院については、悲しい思い出しかない。家に居ても、めんどくさいって言うしかないけど、外に出たら、空がある。風があり、花が咲いている。人がいる。果物が実っているかもしれない。家とか建物は雨風をしのぎ、暖をとるには、とても居心地がいい。けれども、同じ風景、同じ景色ばかり見ていると、だんだん、気持ちが辛くなる。些細な違いは大事だなと気づく。適応してしまうとなにもかもに、無関心になる。


……
高田が泣くのを収まりかけてから、那珂川に連絡をした。彼には、中川が必要だと思った。
私よりも傷ついている。そんな風に見えた。三ヶ月ぶりに中川に会った。
中川はあわてて来た。 



前の夜は、泣いた。涙がとまらなかった。受け入れることは出来ないけれど、自分のだした答えだった。会ってくれるだけでも、誠意がある。そう思った。いつか、思い出になる。そして、紫舟さんにも、別れをつげねばならない。自分のことばかり考えていた。紫舟さんは、おいてけぼりだった。すぐに電話した。電話は繋がった。
「好きな人が出来たから、別れたい。その人とはつきあえないけど、こんなままで付き合っていたくない」
電話で一気にしゃべり続けた。紫舟さんは、静かに聞いていた。怒っていたのかもしれない。一人になった。誰も居ない。誰も幸せにならなかった。私のせい。また、誰かを傷つけてしまった。他人が傷つけられて、苦しくないはずがない。もう、誰とも恋はすまい。そう、思った。

中川と会った時は、生気の抜けたような顔をしていたかもしれない。だが、精一杯の化粧をして、精一杯の自分の中で一番良い服を着た。このあと、紫舟さんにも会う。だから、傷つかないようにしたいと思った。契約を破ってしまったことを謝った。笑おうとした。
誓約書を書いた。紙に判子を押して、夫婦じゃなくなった。両親には後で伝えようと思う。
そう伝えた。中川のことは言わないようにすると約束した。なにかを言おうとして言葉にならない。黙った。黙るしかなくて、拳を握りしめた。あとは互いに弁護士をたてて、調停しようという話になった。そのあと、三和は公園に行った。紫舟さんは、時間きっちりに表れた。なにも言わなかった。なにかを言えば、すがってしまう。強く生きていこう。誰も傷つけないようにと思う。何もかもを失った。もう、頼る人は居ない。ここで泣いてはいけない。泣きそうになったから、空を見た。夕焼けが広がっていた。紫舟さんになんと言われたかは覚えていない。夜になっていた。公園のベンチに座っていた。隣に中川と、紫舟さんが居た。そんな気がする。夢だったかもしれない。

 アパートで、三和はひとり、思い起こす。花を見るために仕事に行くようになった。仕事だけが友だちだった。会社の人とも話すし、結崎とも話す。けれども、家では、料理を作る日もあった。実家に帰ろうとも思った。帰る場所はどこにもなかった。その時、中川は、高田に気持ちを伝えた。二人は両思いになった。めでたしとは、いかないけれども、ゆっくりゆっくり知り合っていこうという話だ。紫舟は、少しずつ三和の居ない生活に耐えようとした。三者が三者なりに生きていた。三和は、結崎には、何も言わなくなった。今日も三和は自分のためにお弁当を作る。中川は、休みの日は、高田と会う。紫舟は、仕事に没頭した。