架空のインタビューズ

世間的には恋人の、契約者である中川(ナカガワ)には、他者に言えないことを相談していた。
 中川は、彼女を三和さんと呼んでいた。
中川のインタビュー
中川-
『三和さんが、伊勢田さんと再び連絡を取ったのはいつ?』
桜井-
『確か、2016年の夏。フラれてから、一年たつか、たたないくらい』
中川-
『早いね。いったい、どうして、電話しようと思ったの。』
桜井-
『伊勢田さんとは音信不通だった。でも、無意識の方ではかけたくて、かけたくて、たまらへんだの。父親に連絡するつもりで、電話番号を押した。けれども、伊勢田さんに、つながった』
中川-
『無意識にかけてしまったんだ。確か、伊勢田さんの電話はブロックしてるとも聞いた気がする。どうやって、彼女はかけ直してきたの。三和さんは、電話をどうしたの。』
桜井-
『あわてて切った。すると、伊勢田さんは、フリーメールで連絡してきた。フリーメールは、ブロックしてなかったから、応じるしかない。それ以後にちょくちょくではないけれど、伊勢田さんとは、電話で近況を話すようになった』
中川-
『電話で近況を聞く仲にはなったんだ。伊勢田さんは、当時はどうしてたの。どうして、かけ直したの』
桜井-
『伊勢田さんは、うつ病で、休職してた。私は結局、誘惑に負けてかけ直してしまった。けれども、かけるまでに30分くらいかかった』
中川-
『だいぶ、時間がかかったね。なぜ、そんなに時間がかかったの。伊勢田さんの、近況を聞いて、三和さんとしては、どう思ったの』
桜井-
『迷っていたの。知りたいと、知りたくないの間に居た。それを見透かされていて、伊勢田さんから、迷っているねと言われた。それ以上、踏み込んで欲しくなくて、嘘を混ぜて会話をした。相手の病気は私のせいじゃないのに、罪悪感がせめぎあっていたの。動揺していたわ』
中川-
『三和さん、つらかったね。伊勢田さんと、再度電話してみて、動揺してしまったんだ。他にも何か考えたの』
桜井-
『ただ、傷つきたくなかったの。なのに、しんどい方に行ってしまう。伊勢田さんとのことでは、もう、十分苦しんだ。罪悪感は、非通知でかけたから来たのだと思っていたの。伊勢田さんと、近況を電話するようになって思ったことがある。付き合っていた時から、未来が考えることが出来ない相手が伊勢田さんだった。電話してみて、改めてお互いに別れてよかった。そう思った』
中川-
『別れてよかったか。どうして、電話を続けているの。』
桜井- 
『もう関係ないことは、わかっている。私は前に進んでいる。忘れてしまうことが彼女のためになる。けれども、ことあるごとに迷惑をかけたことが思い出されて、心を苦しめる。伊勢田さんからは、うっかりした時に限って、ちゃんと連絡が来て、心が落ち着かない。出れなかった時も、電話をかけなおす。そうい自分に動揺して、さらに落ち着かない。ただ、繋がっていたい。知りたい。そこに、相手を思いやるという優しい気持ちは微塵もないの』
中川-
『伊勢田さんが、病気だからかな。あなたは、優しいね。本当に彼女との、未来は想像しなかったの?』
桜井-
『誰かの幸せ報告を聞くと、ありえたかもしれない彼女との未来を考えてしまうこともあった。もう、自分と彼女の間は、終わったことだわ。関係ない、割りきれと、恋愛指南書の通りにした。でも、忘れようとしている間は無理だった。なかなか、割りきるのは難しい。別れた相手を忘れることが、自分の幸せには必要であり、彼女にも必要なことだと思う。好きというか、執着という呪いを解くのは、フラれた、ちっぽけな自分を受け入れることなのかな。中川さんは、どう思う?』
中川-
『三和さんが言っている通り、忘れることじゃないかな。自分を受け入れることもそうだし、自分の弱さから、見えてくるものがある気がする。あと、伊勢田さんは、今は恋人とはどうしていたの?』
桜井-
『弱さって、なんだろう。逆に、伊勢田さんと話すと自分には、なにも出来ない無力感を感じるの。近況とか、知りたくなかった。彼女には、幸せであってほしかった。いや、幸せかどうか、決めるのは彼女だから、わからない。自分には不幸せに見えても、彼女はそうは思わないかもしれない。私は弱くて、傲慢かもね。伊勢田さんには、彼女を心から好いて、支えてくれているパートナーが居るようなの。それは良かったと思う。相手が自分がフラれる理由になった方だとしても、彼女には今は支えが必要だと思う』
中川-
『三和さんが苦しむことじゃないと、俺は思うよ。伊勢田さんとの、電話して疲れているのじゃない。今、あまり表情がよくないよ』
桜井-
『疲れている。そうなの。気づかないうちに、サービス精神を発揮しているみたい。前に離した、梅さんという酔っぱらいの説教にしっかり頷いてみたいしている。話すのは好きな方なの。自分が心を許す相手からは、頼られたり、電話されたら、嬉しい。けれども、電話後に罪悪感がひどくなる。梅さんとの電話も、伊勢田さんとの電話も、ちょっとしんどいなーと思う。こっちが具合が悪くなることを伊勢田さんは、知っているから、気を使ってくれる。伊勢田さんには『大丈夫ですよ~』とか言ってしまう。そんなヘロヘロした自分に後から怒りが込み上げてきたり、わけのわからない痛みに襲われるの』
中川-
『疲れているの。話しすぎたね。三和さん、ちょっと休もうか。休憩ね』
桜井-
『うん。』

10分後

桜井-
『伊世さん、再開したい。全部話してしまいたいの。』
中川-
『わかった。辛そうだけど、聞くよ。梅さんとか、伊勢田さんとの関係は、一人暮らしをしだしてから、何か変わった。あとは、罪悪感は、どう対処しているの』
桜井-
『今までは痛みは、自分を傷つけて癒していた。けれども、明日の生活がかかっているから、自分を傷つけるわけにはいかなくなった。仕方がないから、医師に処方された頓服薬に頼ったり、寝たり、料理を作るの。独りで対処するようになった。前は、罪悪感や、ストレス発散、痛みの処理は人に頼っていたの。こんな風に話をして甘えていた。今も、まだ、弱いから人に頼りたくなる。甘えたくなる。けれども、頼れない時間に痛みがやってくるから、独りで対処するしかない。梅さんの言葉にも、伊勢田さんにも、とても辛くなる。自分は、ひどいなと思う。たまに、なんで、こんなにしんどい思い、わけのわからん罪悪感にさいなまれるのだろうと疑問に思う。だから、あまり、自分からは電話しないようになった。たまに、中川さんに話すとか』
中川-
『あまり、話してこないように思うよ。対処の仕方を考えたんだね』
桜井-
『そうかな。充分、頼りにしているけどな。この間、携帯電話の通話歴を見たら、ビックリした。私の通話暦、伊世さんに連絡を取るよりも、伊勢田さんと連絡する方が多いの。電話するごとに、強くなったね、と伊勢田さんからは言われる。そりゃ、そういう環境に自分を置いたからだよ。誰も頼れない、甘えることが出来ない環境になったから、自分でなんとかするしかない。強くはなってないの。伊勢田さんの前では、弱いのを無視して、押し込めているだけなの』
中川-
『三和さんは、弱さを隠しているのかな。ちょっと、無理してるとは思うよ。伊勢田さんからは、どういう時に電話がかかるの。』
桜井-
『パートナーに頼れない時かな。なんか、夜に辛くなるみたい。数日前にも、夜に電話したくなって、起きてるとメールが来たわ。わたしを選んだのは、時間帯で起きてるからだって。辛い理由は、聞かなかったし、話さなかったわ。わたしはね、思うの。あの別れて、辛い時期には、別れた相手に頼らなかった。わたしも、彼女を友だちと言いつつ、電話してしまう時がある。それって、互いに互いを都合よく利用しているだけだと思う』
中川-
『それは、友だちじゃないのかな。あと、三和さんは彼女以外のいろんな異性に頼ってたと聞いた気がするんだけど……。多分、いろんな人に自分がもらったものを返そうとしているような気がする。それが伊勢田さんなんじゃないかな』
桜井-
『そこは、言わないで。まだ、自分でわかってないから。』
中川-
『わかっていないんだ。三和さんは、与えることが出来てるのかもよ。それに、伊勢田さんに返すことはないと俺は思うよ』
桜井-
『そうかしら。何を伊勢田さんに何を返しているのかな』
中川-
『別に目に見えるものじゃない。ただ、辛いときの電話に応じる。その優しさを愛って、言うじゃないかな。それと、呪いはとけたの』
桜井-
『呪いは、とけたよ。悪い魔女の呪いは、自分で説くことが出来る。私は、私の周りの人の幸せを心から願うことが出来る。身近な人が、幸せじゃないと、私も悲しい。そう、気づいた。』