片想い-悪い魔女の呪い〈1〉

 三和には、紫舟さんと付き合う前に、ベタぼれしていた彼女が居た。彼女の名は、伊勢田 京(イセダ キョウ)という。
 三和と京が、別れた原因は、京に好きな人が出来たからだ。三和は突然に電話で『気持ちがわからない』と別れを切り出された。
 京は、女性だが、女性とも、男性とも付き合える。しかし、聞いてみれば、ほぼ年上のしっかりした男性とお付き合いをして来たそうだ。女性は、三和が初めてだという。三和は京より、2歳年下だった。京は、三和より年上にも関わらず、大きな弟のようだった。女性に対して、男のようだというのは、大変失礼だが、そうなのだから、仕方がない。いたずらが好きで、小さな男の子のように目を輝かして、いたずらをした話をする。見た目は、日本人形のようだった。おかっぱで着物がよく似合う。
 京は、人をよく見る女だった。祖父母に厳しく育てられたせいかもしれない。
 京の伊勢田という名字は、母の姓だ。京の両親は恋をしていた。しかし、京の父は名の知れた服屋の跡継ぎだった。京の母には兄が一人いるだけで、家族はそれきりだった。母方の両親は早くに他界し、母は、裁縫仕事をしながら、学校を出たらしい。二人は結婚を反対され、家を出た。父方の実家とは、絶縁状態だった。しかし、京の母が病気となり、やっていけなくなって、父が実家を頼った。
 祖父母のもとで援助を受けながら、京は育った。父の代わりのように、しかし、顔が憎い母に似ていたため、時に憎しみをこめた目を向けられた。
 京も言っていたが、男性のように見えるのは、祖父母宅で時に男子のように振る舞えという無言の圧力を受けたからのようだった。 
 しかし、中学と高校は一貫の女子校に入れられた。周りは女子ばかりで、環境的に好きな人も居たらしい。告白はしなかったようだが。
 京は、両親とも祖父母とも早く離れたいと思っていたようだ。大学生の時に東京から、身内が母方の兄しかいない、京都に来た。
 いろいろあったようだが、大学の頃の話は、三和はよく知らない。
 彼女は、調理師の免許を持っている。調理師として、彼女は病院の調理場で働いていた。三和と出会ったのは、病院でだった。
 しかし、女二人の付き合いや、父方の実家から逃れたいという京の気持ちはうまくいかなかった。
 三和は、京と付き合う中で、何度も傷ついた。そして、結果的にフラれた。京には、誰でも選びたい放題だったろうと、三和は思う。
 さて、京と三和は別れて以後は、三和が伊勢田京をブロックする形で音信不通だった。
 しかし、携帯電話の非通知で電話をかける程度には、三和は京に気持ちが残っていた。
  三和は、京と別れた時に、自分で自分にとけない呪いをかけた。
 それは、自分でとこうと思えばとけるのだが、時間がかかり、勇気も居るのだった。
 桜井三和は勝手に呪いに名をつけた。名を『悪い魔女の呪い』という。
 昔話で三和は読んだことがある。悪い魔女の呪いで、カエルになった、ある国の王子様が居た。王子様の呪いを解くのには、心から彼を愛する女性のキスが必要だった。そういう設定だった。
 三和は、京にフラれた時に、『自分が醜いカエルのようになった』と思った。カエルを好きな女性は、ほぼいないからだ。しかし、三和は自らをカエルだと思う一方でこうも思うのだ。
 本当に、呪いをとくのに相手は必要なのだろうか。呪いを解くのに、必要だったのは、自分で自分をカエルでも良いと思うことではなかろうか。『愛する女性のキス』というのも、自分を受け入れてくれた存在という設定だと裏読み出来る。受け入れる存在は何も他者でなくていい。自分自身で呪いを解くことだって、出来る。三和は、病院に通いながら、そう思っていた。けれども、彼女は自分で呪いから抜け出すことはしなかった。