片思い-悪い魔女の呪い〈3〉

世間的には恋人の、契約者である中川伊世(ナカガワ イヨ)には、紫舟に言えないことを相談していた。
 中川は、彼女を三和さんと呼んでいた。
中川のインタビュー
中川-
『三和さんが、伊勢田さんと再び連絡を取ったのはいつ?』
桜井-
『確か、2016年の夏。フラれてから、一年たつか、たたないくらい』
中川-
『早いね。いったい、どうして、電話しようと思ったの。』
桜井-
『伊勢田さんとは音信不通だった。でも、無意識の方ではかけたくて、かけたくて、たまらへんだの。父親に連絡するつもりで、電話番号を押した。けれども、伊勢田さんに、つながった』
中川-
『無意識にかけてしまったんだ。確か、伊勢田さんの電話はブロックしてるとも聞いた気がする。どうやって、彼女はかけ直してきたの。三和さんは、電話をどうしたの。』
桜井-
『あわてて切った。すると、伊勢田さんは、フリーメールで連絡してきた。フリーメールは、ブロックしてなかったから、応じるしかない。それ以後にちょくちょくではないけれど、伊勢田さんとは、電話で近況を話すようになった』
中川-
『電話で近況を聞く仲にはなったんだ。伊勢田さんは、当時はどうしてたの。どうして、かけ直したの』
桜井-
『伊勢田さんは、うつ病で、休職してた。私は結局、誘惑に負けてかけ直してしまった。けれども、かけるまでに30分くらいかかった』
中川-
『だいぶ、時間がかかったね。なぜ、そんなに時間がかかったの。伊勢田さんの、近況を聞いて、三和さんとしては、どう思ったの』
桜井-
『迷っていたの。知りたいと、知りたくないの間に居た。それを見透かされていて、伊勢田さんから、迷っているねと言われた。それ以上、踏み込んで欲しくなくて、嘘を混ぜて会話をした。相手の病気は私のせいじゃないのに、罪悪感がせめぎあっていたの。動揺していたわ』
中川-
『三和さん、つらかったね。伊勢田さんと、再度電話してみて、動揺してしまったんだ。他にも何か考えたの』
桜井-
『ただ、傷つきたくなかったの。なのに、しんどい方に行ってしまう。伊勢田さんとのことでは、もう、十分苦しんだ。罪悪感は、非通知でかけたから来たのだと思っていたの。伊勢田さんと、近況を電話するようになって思ったことがある。付き合っていた時から、未来が考えることが出来ない相手が伊勢田さんだった。電話してみて、改めてお互いに別れてよかった。そう思った』
中川-
『別れてよかったか。どうして、電話を続けているの。』
桜井- 
『もう関係ないことは、わかっている。私は前に進んでいる。忘れてしまうことが彼女のためになる。けれども、ことあるごとに迷惑をかけたことが思い出されて、心を苦しめる。伊勢田さんからは、うっかりした時に限って、ちゃんと連絡が来て、心が落ち着かない。出れなかった時も、電話をかけなおす。そうい自分に動揺して、さらに落ち着かない。ただ、繋がっていたい。知りたい。そこに、相手を思いやるという優しい気持ちは微塵もないの』
中川-
『伊勢田さんが、病気だからかな。あなたは、優しいね。本当に彼女との、未来は想像しなかったの?』
桜井-
『誰かの幸せ報告を聞くと、ありえたかもしれない彼女との未来を考えてしまうこともあった。もう、自分と彼女の間は、終わったことだわ。関係ない、割りきれと、恋愛指南書の通りにした。でも、忘れようとしている間は無理だった。なかなか、割りきるのは難しい。別れた相手を忘れることが、自分の幸せには必要であり、彼女にも必要なことだと思う。好きというか、執着という呪いを解くのは、フラれた、ちっぽけな自分を受け入れることなのかな。中川さんは、どう思う?』
中川-
『三和さんが言っている通り、忘れることじゃないかな。自分を受け入れることもそうだし、自分の弱さから、見えてくるものがある気がする。あと、伊勢田さんは、今は恋人とはどうしていたの?』
桜井-
『弱さって、なんだろうか。逆に、伊勢田さんと話すと自分には、なにも出来ない無力感を感じるの。近況とか、知りたくなかった。彼女には、幸せであってほしかった。いや、幸せかどうか、決めるのは彼女だから、わからない。自分には不幸せに見えても、彼女はそうは思わないかもしれない。私は弱くて、傲慢かもね。伊勢田さんには、彼女を心から好いて、支えてくれているパートナーが居るようなの。それは良かったと思う。相手が自分がフラれる理由になった方だとしても、彼女には今は支えが必要だと思う』
中川-
『三和さんが苦しむことじゃないと、俺は思うよ。伊勢田さんとの、電話して疲れているのじゃない。今、あまり表情がよくないよ』
桜井-
『疲れている。そうなの。気づかないうちに、サービス精神を発揮しているみたい。前に離した、梅さんという酔っぱらいの説教にしっかり頷いてみたいしている。話すのは好きな方なの。自分が心を許す相手からは、頼られたり、電話されたら、嬉しい。けれども、電話後に罪悪感がひどくなる。梅さんとの電話も、伊勢田さんとの電話も、ちょっとしんどいなーと思う。こっちが具合が悪くなることを伊勢田さんは、知っているから、気を使ってくれる。伊勢田さんには『大丈夫ですよ~』とか言ってしまう。そんなヘロヘロした自分に後から怒りが込み上げてきたり、わけのわからない痛みに襲われるの』
中川-
『疲れているの。話しすぎたね。三和さん、ちょっと休もうか。休憩ね』
桜井-
『うん。』

10分後

桜井-
『伊世さん、再開したい。全部話してしまいたいの。』
中川-
『わかった。辛そうだけど、聞くよ。梅さんとか、伊勢田さんとの関係は、一人暮らしをしだしてから、何か変わった。あとは、罪悪感は、どう対処しているの』
桜井-
『今までは痛みは、自分を傷つけて癒していた。けれども、明日の生活がかかっているから、自分を傷つけるわけにはいかなくなった。仕方がないから、医師に処方された頓服薬に頼ったり、寝たり、料理を作るの。独りで対処するようになった。前は、罪悪感や、ストレス発散、痛みの処理は人に頼っていたの。こんな風に話をして甘えていた。今も、まだ、弱いから人に頼りたくなる。甘えたくなる。けれども、頼れない時間に痛みがやってくるから、独りで対処するしかない。梅さんの言葉にも、伊勢田さんにも、とても辛くなる。自分は、ひどいなと思う。たまに、なんで、こんなにしんどい思い、わけのわからん罪悪感にさいなまれるのだろうと疑問に思う。だから、あまり、自分からは電話しないようになった。たまに、紫舟さんに話すとか、中川さんに話すとか』
中川-
『あまり、話してこないように思うよ。対処の仕方を考えたんだね』
桜井-
『そうかな。充分、頼りにしているけどな。この間、携帯電話の通話歴を見たら、ビックリした。私の通話暦、紫舟さんや伊世さんに連絡を取るよりも、伊勢田さんと連絡する方が多いの。電話するごとに、強くなったね、と伊勢田さんからは言われるわ。そりゃ、そういう環境に自分を置いたからだよ。誰も頼れない、甘えることが出来ない環境になったから、自分でなんとかするしかない。強くはなってないの。伊勢田さんの前では、弱いのを無視して、押し込めているだけなの』
中川-
『三和さんは、弱さを隠しているのかな。ちょっと、無理してるとは思うよ。伊勢田さんからは、どういう時に電話がかかるの。』
桜井-
『パートナーに頼れない時かな。なんか、夜に辛くなるみたい。数日前にも、夜に電話したくなって、起きてるとメールが来たわ。わたしを選んだのは、時間帯で起きてるからだって。辛い理由は、聞かなかったし、話さなかったわ。わたしはね、思うの。あの別れて、辛い時期には、別れた相手に頼らなかった。わたしも、彼女を友だちと言いつつ、電話してしまう時がある。それって、互いに互いを都合よく利用しているだけだと思う』
中川-
『それは、友だちじゃないのかな。あと、三和さんは彼女以外のいろんな異性に頼ってたと聞いた気がするんだけど……。多分、いろんな人に自分がもらったものを返そうとしているような気がする。それが伊勢田さんなんじゃないかな』
桜井-
『そこは、言わないで。まだ、自分でわかってないから。』
中川-
『わかっていないんだ。三和さんは、与えることが出来てるのかもよ。それに、伊勢田さんに返すことはないと俺は思うよ』
桜井-
『そうかしら。何を伊勢田さんに何を返しているのかな』
中川-
『愛だよ。別に目に見えるものじゃない。ただ、辛いときの電話に応じる。その優しさを愛って、言うじゃないかな。それと、呪いはとけたの』
桜井-
『なんだか、愛とは違う気がする。呪いはちょっと、とけたよ。悪い魔女の呪いは、好きな人のキスでとけるんだから。でも、わたしはカエルなの』

片思い-悪い魔女の呪い〈2〉

 三和は、伊勢田京に、フラれてから、気づくと涙が出てきた。三和は自分自身か価値のない、ただのカエルだと思うようにもなっていた。しかし、自己陶酔に浸れるのだから、フラれるのは楽かもしれないと、三和は紫舟さんと出会ってから思うのだ。
 フラれてから、伊勢田に使っていた時間を、桜井三和は自分自身のために使うようになった。家族をも省みず、ボランティアや、仕事に熱中した。京を見返そうとかではなくて、ただ悔しかった。そして、自分が信じられなかったのだ。人との約束も、出来る限り、守ろうとした。家で同居していた祖母が危篤になった時も、彼女は仕事をしていた。祖母は一度、黄泉の池に足を入れてしまったのではないかと三和は思う。
 治療で回復したものの、回復した祖母は、以前の祖母ではなかった。寝たきりとなり、家で暮らすのが難しくなった。病院や老人ホームを転々とした。転々とする中で、祖母は生きることをやめていった。三和は、そんな祖母に会いに行くのがだんだん、辛くなってきた。仕事を理由に、ほぼ家をあけていた。死期がちかづいた時も、自分が悲しくなるからという理由でおちおち見舞いにもいかなかった。知らせは突然だった。祖母は、亡くなった。
 三和は、自分自身を持て余していた。彼女は、絶対電話するもんかと決めてたけれども、そんな決意はすぐにつぶれた。
 三和は結局、誰かにわかって欲しかったのだろう。三和には、親しい人が数名ほど居た。
 ボランティアで出会った33歳の、伊賀さんには、勉強を教わっていた。お礼にと、数回食事に誘った。伊賀さんは、高収入な企業に勤めているようだが、詳しくは三和はよく知らなかった。だんだん、伊賀さんも忙しくなってきたのか、それとなく、『会いたいです』と言うと、メールすら帰ってこなくなった。音信不通になった伊賀さんのSNSを、ちょこちょこと、三和は見ていた。新しい職場に転職した情報は、本人から聞いていた。互いの転職を祝って、食事にも行ったくらいだ。そして、音信不通になった。紫舟さんと三和が知り合った頃に、SNSに『結婚した』という表示が出た。それとなく、好きになった異性なので、しっかり、チェックを三和はしていた。内心『うわわ』と思った。これは、三和の告白する前の失恋だった。告白すらさせてくれなかった伊賀さんは、さすがだ。
 二人目の男性、三和はカッパさん(2X歳)と呼んでいた。カッパさんは、三和と年齢が近かった。同い年だが、学年は一つ下だった。カッパが好きで、常にどこかしらに、カッパをつけていた。カッパさんは、どちらかというと三和のタイプではなかった。顔が可愛らしくて、民話が好きで、女子の友だちが多かったのだ。しかし、三和はタイプではないのにも関わらず、カッパさんに話を聞いた。女子の一人として、いた。好きでもないのに、『好みなの』と言ってみた。少し遊びを重ねてみた。だが、むなしくなるばかりだった。カッパさんには申し訳ないが、途中で、ボランティア以外で会うのはやめた。カッパさんのような男性はもう一人居て、今も繋がっている。桜井三和は、恋愛依存体質らしい。他にも、ハグを許した40代独身のパパさんが居た。一人暮らしを始めて、紫舟さんと付き合うと言ったら、怒りだしたので、会うのは止めた。
 三和の人漁りは止まらない。職場でも、先輩(23歳)に色目を使っていた。相思相愛だと、三和は思っていた。けれども、付きあえないとはっきりとその女性には言われた。泣いてすがってみたが、ダメだった。びくともしない。その女の先輩曰く『好きだが、付き合えない。なぜなら、自分は一人で食べていけると思えるまでは、誰とも付き合えない。そうしないと、幸せには相手を出来ないから。決めたことだから』と、伝えられた。
 三和は、フラれた後に学校に通っていた時期がある。その時に、一人の男の子(23歳)と親しくなった。ある時、あんまりに普通に出来ない時があった。普段は、男の子の話を聞くばかりだった。その時に、チラッと恋愛関係の、たわいのない話をした。男の子には、そういう話はしたことはなかった。三和には珍しく、相手を落とそうという考えもなかった。そういう目でも見たこともなかった。それが、なんだか、おかしなことになった。『辛い』と伝えた後に、男の子から告白された。
 三和は、中川に後に以下のように語る。
 『学校に行ってた時に親しい男の子が居た。二年間、親しくしていた。突然に告白された。その時になんか、ハートにズキューンと矢が刺さった。痛かった。久しぶりに、告白されるって、こういう痛みがあるんやと、思った。その子には悪いけど、断った。彼をそういう目で見れない。なにより、多分、彼の前ではサービス精神旺盛に頑張ってしまっている自分に気づいたからなの』と。
 中川は『男の子は、気づいていたのじゃない。』と聞いた。
三和は『男の子は気づいてたか、気づいてなかったか、知らない。そういうのは、ずっとやっていくのは、疲れるなと思った。断るときに、ハートがズキズキ痛かった。男の子が真剣に告白したからこそ、ハートにズキューンと来たのやと思う。それに応えて、断るのはほんまに疲れる。自分が疲れる相手はやめた方がええなと気づかさせてもらった。自分がそういう話をしなかったら、普通に友だちをやれてたんかなとか思うと、寂しくなった』と語り続けた。
 三和とその彼とは、最近は、あまり連絡をとっていない。
 他にも、頼った相手が居る。アル中の梅さんという人だった。50代の男性だ。ボランティア仲間で、ボランティア関係の気になることをちょくちょく連絡していた。ある日は、メッセージですませたい内容だったから、メッセージにした。そうしたら、電話をかけてきた。梅さんとも、夜に電話をする仲だった。 梅さんは切り口が鋭い言葉を使う。彼の持論ではそうすると、『回復する』と言うのだった。梅さんは、恋愛感情はない。ただの酔っぱらいで叱ってくれるおじさんだった。
 最近は、紫舟さんや中川という二人が出来たので電話もかけなくなっていた。

自覚がないの

 わたしの周りには、人に話していいこと、悪いことが区別がついている人がいた。周りの人はそうなんだけれど、私はうまく、その辺を教育されなかった。自分でも、ちゃんと学ばなかった。
 理由も知らせられず、自分で理由も考えず、家庭では特に母には『~には、○○と言うたらあかん』と母に教わる。
 別に誰が傷つこうがかわないが、自分は相手には悪く思われたくないと、母は思っていたみたいだ。たぶん、母は自己保身や体面しか考えていないのだろうなと、思った。ある意味、正直なんだな。
 大学や高校、アルバイト先で『○○だから、○○しちゃいけない。(さらに)なぜなら~』と叱られた。よく、何回も外の人からは、思いやりを持ってと、叱られる。
けれども、母は、理由も言わずに、言わないでと、諭された。
 言うたらあかんと良いながら、母があかんことを言うている。意味がわからない。
母は、教育が下手くそだった。己の体面しか考えていないことを、自分でわかっているのだろうか。わからないのだろうな。彼女は自分に思いやりがないこと、押し付けの親切って、わかっているのだろうか。ありがた迷惑って知っているのだろうか。
 私も彼女みたいだから、しっかり叱られなきゃいけない。

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片想い-子を思う想像

 小学生の頃だった。三和のおばさんが、今の旦那さんと結婚する前にお見合いした男性との、結婚が破談になった。そう聞いた。理由は、家族、相手の母親の強い反対だったそうだ。
 三和は幼くて、その話を聞くともなしに『そんなこともあるのだろう』と聞いていた。だが、いざそれが自分の前に降りかかると、ずいぶんと重くのしかかってきた。
 他人事は、なかなか、自分事になるまで、時間がかかる。
今日、三和は中川の母の話を、聞いた。
彼女は己の行動を内心振り返り、『私はあまり、良いように思われないだろう』と、思った。
具体的にふりかえるならば、例えば、心療内科にかかっていることだ。
 三和は5年間の治療の中で、何回も自分で自分を傷つけてきた。
 第一は風邪薬を大量に飲んだことだ。飲んだ理由は、気持ちがつらくなったからだ。訳のわからない気持ちの辛さから、身体に痛みを与えて、逃れようとした。その結果、胃液をたくさん吐いて、体調が悪くなった。三和を見つけたカウンセラーには、すぐに病院に行くようにアドバイスをされた。しかし、駆けつけた家族は三和を一晩放置した。いろいろ理由も、あったのだろう。翌日に病院に連れていかれた。病院で、胃洗浄をした。また、母親の体面を気にする面を、病院の医師が注意していた。三和が朦朧とする意識の中で、看護師の言葉に一晩放置されたことや、自殺願望をほのめかしたからだ。
それを地声の大きな医師が聞いて、『なぜ、一晩放置したのか。早く連れてこないのか』や、『自殺願望があるなら、専門医に』など、付き添っていた母親に伝えた。母親は、三和が横たわるベッドの周囲に、同じ自治会の知り合いを見つけた。そのために、余計に『知り合いが居るので、声を押さえて欲しい』と返事を返していた。母親の様子に医師が怒りをあらわにし、余計に声を出した。『奥さん』と、『あなたは……』しか三和には聞こえなかった。どうやら、叱られたと母から聞いた。しかし、母は反省もせずに、病院の医師の地声の大きなことや知り合いが居るから困るということをブツブツと呟いていた。
なぜ、自分が叱られなければならないのか、とも呟いていた。
 母親は、心細くて、三和の友人(と母には伝えていた)、当時付き合っていた彼女、伊勢田京を呼び出した。京の顔色は、うす青く、唇は紫色だった。三和はそう、記憶している。『京を呼び出さないで欲しい』と三和は思った。
 三和は、母親の心細さに、京を巻き込まないで欲しかった。京の顔を見て、母親は恐れおののいていた。母親曰く呼び出された『(京が)恐ろしい顔をしていた』からだった。もちろん、京が三和に対して怒っていたというのもあるだろうし、仕事の疲れもあっただろう。怒りは、心配の逆の表現なのではないかと、三和は思う。心配ということを表現出来ずに、心配から『なぜ、こんなことをした?』という怒りに変わったのだろう。三和の勝手な推測だが、そう思う。
 母親の意図にも気づいて、京はそれが嫌だったのではないか。
 今となっては推測に過ぎない。呼び出した京の表情にも、驚き、それを隠そうとした。
 母曰く『心配しているように見えない。怖い、こわい顔だった』という。
 第二に、三和は自分の髪をき、坊主にしたこともある。その時は、伊勢田に自ら別れを切り出した時だった。これ以上付き合っていても、お互いのためによくないと三和は思っていた。しかし、あまりの辛さから、自分が悪いと思った。自分の罪悪感をどうにかしたいと思った。
 髪は女の命だ。伊勢田に謝罪もできず、ただ、見た目で気持ちを表現したかった。
 当時、電脳組というアイドルグループの根岸みな子が、スキャンダルを起こして、週刊誌に取り上げられた。その事で、本人が謝罪のために、土豆という動画サイトに動画を乗せた。動画では、自ら剃髪したという頭で、涙ながらに謝罪をしていた。動画の再生回数は伸び、様々なメディアが取り上げた。
 三和も、その映像を見た。罪悪感のおさめ方はこれだと三和は思ったかもしれない。本人もよくわからない。ただ、がむしゃらに髪を切った。帰宅した母は、三和を見て、驚いて、意味のわからない物体を見るように睨んだ。
 『なんで、こんなことをしたの?』と怒気を含み、彼女は言った。三和は、泣きながら、謝った。そして、涙ながらに散髪屋に連れて行ってくれるように頼んだ。母は、散髪屋に向かう途中で『まさか、自分の娘がおかしくなって、髪を切ったとも言えないし』と三和に向かって言った。 
他にもいろいろあるが、三和には思い出せない。治療の課程で罪悪感から、窓から飛び降りようとしたこともある。罪悪感より、死ぬことへの恐怖が出た。
 病院にかかる時の初めは川に入ったが、生きていた。それから、止まらなくなった。己を傷つけること、罪悪感から逃れることだけが三和には、自分を救う手立てだった。
 母は三和の前で数度『娘がおかしくなった』と言った。
 三和が問いただすと、『そんなこと、思っていない』と母は言う。
 思っていないことは言えまい。自分の口にした言葉を認めまいとした。三和には、母親が母親自身に嘘をついているようにしか見えないと思うことがある。人の傷つくようなことを言うと、最後には『こんなこと、思っていても言えないし。言うわけない』とつける。
 そして、三和が反応すると『例えばの話やて。例えばの…』と意味のわからない言い訳をした。
 話がそれた。世間では、三和の諸行は『頭がおかしい』部類に入る。だが、三和は生きてきた。
 そして、様々な罪悪感から来る頭のおかしい行動に、両親の特に母の無理解な言葉を浴びながら、過ごしてきた。
 そんな中で紫舟さんという理解者も得た。中川は、三和の家に泊まりに来た。紫舟さんのことも、知っている。
 中川は忙しい中でも、時間を作り、三和の家に来る時間を作ってくれた。
 だが、両親には心配をかけるからという理由で、内緒にしていたようだ。
 三和の家に挨拶に来るように頼んだのは、三和だった。
 三和は、駄々っ子のように『伊世さんの家にいきたい』と言ってみた。
 中川はいつも、笑って、話をぼやかした。三和は思うのだ。多分、うすうす、中川の母は、三和を知っているだろうと。
 中川が、友だち付き合いの頻度が急にあがったので、何かに気づいているのではないかと。
中川が、母と面談をしに、家に来たので、三和も思いきって頼んでみた。すると、中川いわく『(母は)相当の心配性』らしいと聞いた。
そういえば、中川はデートの時はいつも、彼の母に『夕飯を食べてくる』と細々と母に連絡を入れているのだった。
 三和の家に泊まる時も帰るときも、時間を計算して、『母が』と口にしていた。
 三和は妄想する。息子に迷惑かけないような人、息子を支えるような人に、結婚して欲しい、そういう人と結ばれて欲しいと望まれているのかもしれない、と。
話の流れで三和は、中川が『しっかりした人なのは、きっと、お母さまがしっかりしてるからだろう』と思った。
三和の想像は続く。親は、誰も子どもに苦労をかけたくない。子ども本人がそう、望んでいなくても、親はいつまでも、親だ。心配だ。
 三和は思う。
『わたしの親も、きっと、私が泣くようなことは望んでいないだろう。』と。
 付き合うというのは、二人だけの問題で済むかもしれない。しかし、それに息子を愛する、娘を気にかける親にしたら、先に結婚が見えているのかもしれない。
先々のことを考えたら……。

三和は心配だった。自分がジャッジされる対象になるとは、思ってもいなかった。
まだまだ、ふわふわとしているので、結婚にも恋愛にも遠いだろうと、三和は思った。さらに、中川の母親に気に入られるという自信もなかった。
現実は、甘くない。付き合う段階ですら、家族と会うことすら、厳しい。
中川にしても、三和にしても、互いのパートナーの親にしたら、二人は互いに大事な子どもなのだ。
だから、目が厳しくなる。だから、自分のためにも中川にふさわしくなるように、頑張らねばいけないと理屈ではわかる。
しかし、感情が追い付いていない。所詮、その程度にしか考えられないのかもしれない。出来ていない時点で、中川と共に生きるという道を離脱したのと同じなのだ。
契約者でも、家族に気に入られなければ、結婚は無理だ。
 結婚は二人の気持ちが大事だろうが、そこまで行くのには、壁がある。

トイレの張り紙のこと

さっきのから、脱線したの。

なんとなく、このトイレの張り紙の『ありがとうございます』にけおされて、きれいに使おうと思う。例えばだけど、『~すると困る』『~するな』という否定語ではなくて、『して頂き、嬉しいです』とつける。例えばだけど、『いつも、みんな様の本を丁寧にご利用頂き、ありがとうございます』とか。
という文についた、返信ツイート。
https://twitter.com/elcmjh/status/895617073614696448

あなたの言葉は大事な視点というか、貴重なひとつの意見です。利用者を意のままに管理しようとしていたかもしれず、気をつけないとと思いました。「ありがとうございます」とか「一歩前にお進み下さい」は丁寧語で、普段も聞くゆえに、気づきませんでした。無意識にいつも聞く言葉が統制語、管理語だと思います。
続きます。無関係かもですが、電車のホーム、エレベーターでの事故防止用のアナウンス、バスのアナウンスも、事故防止用に丁寧語で「~してください」とか「~されますと、事故になります」とあります。それも管理、統制表現かなと。トイレは、清掃を減らす、多くの他者が利用する理由で綺麗を働きかけている、と感じました(さかさんの表現より)。読み間違い失礼しました。緒個人への統治、管理、行動の制約語ですね。私の図書館本ツイートでは、修理の作業削減を狙ってました。トイレの表現に、私自身が「トイレを綺麗に利用せねば」と威圧を感じたのに、他者にそれを強制してはいけないとも。
事故を防ぐためのアナウンスと、トイレ利用の表現は意図は違うかもです。けれど、私は、街中でたくさんの制約し、無意識に働きかける管理する言葉を聞いて、それの通りに行動しているとも感じます。質問です。街中のBGM(アナウンス)には、管理されてると思うことはございますか?長々すみません。

お返事
https://twitter.com/elcmjh/status/896026924333514754

街中のアナウンスや音楽から、"いそぎたてる"とか"購買意欲を煽る"ように感じるのですね。これまでのお話から、無関係かもですが、ミヒャエル·エンデ(作)の『モモ』という作品を思い出しました。ゆっくりと過ごす時間などを貯金して、常に動くことを要求する。時間銀行·灰色の男達=街中の音みたいな。

あるツイートから派生した考え。

https://twitter.com/dellganov/status/895304464210448385

このツイートについて、考えたこと。

マナー感って、なんだろう。貸さないという対応は、反発を招くのはわかる。なんとなく、利用する側としても、厳し過ぎると思う。全然関係ないけど、思うことがある。コンビニのトイレやお店のトイレで、『きれいに使って頂きありがとうございます』というお礼がトイレの壁に書いて貼ってある。
なんとなく、このトイレの張り紙の『ありがとうございます』にけおされて、きれいに使おうと思う。例えばだけど、『~すると困る』『~するな』という否定語ではなくて、『して頂き、嬉しいです』とつける。例えばだけど、『いつも、みんな様の本を丁寧にご利用頂き、ありがとうございます』とか。
例えばだけど、『貸し出しません』じゃなくて、『お読み頂けましたら、貸し出し期限に返却して頂けましたら、図書館として嬉しいです』『予約が入っていなければ、再度の延長も可能です』とか。
本の奥付け、中身に書き込み、線引き、ページを破られた、貸し出し期限を過ぎても返却しない、とかと聞くと、つい厳しい姿勢で行っちゃうみたいよ。長期未返却者は、返却するまで利用禁止とか、返却期限守れなかったら、過ぎた期限内は貸出しないとか。
厳罰化がいいのだろうか。図書館の本を大切にしないのが、なくならないのは、なぜなんだろうか。そもそも、図書館の本に、どうして書き込みが出来るんだろう。

片想い-寂しさを抱える(桜井)

 今は、三和は中川の買った家で、部屋を借りて、二人で暮らしている。しかし、中川は、ほぼ仕事で帰らない。たまに、帰るとご飯は一緒に食べるが、寝るときは二人とも別々の部屋だ。
 掃除や洗濯、家事の一貫で中川の部屋に入ることもある。それは、伊世も、許可している。ただ、お互いにそーっと、相手の領域には踏み込みすぎないように遠慮をしている。伊世が帰宅した時には、伊世が家事をする。掃除も、洗濯も、職場でやっているからか、三和よりうまいとさえ思う。
 けれども、伊世も、三和の部屋に入るときは、気をつけている。机のものに、触らないなどだ。
 三和には、恋人が居る。伊世にも、多分、好きな人が居るかも知れない。
 中川には、三和は恋人の菰野 紫舟(コモノ シフネ)さんを紹介した。三人で食事に行ったこともある。紫舟さんは、男みたいな格好をしている。三和より、3才年上の女性だ。今は、保健所で、働いている。三和は、市役所で窓口業務をしている。
 中川の不在時には、紫舟(シフネ)さんを読んで、一緒に過ごす。けれども、お互いに仕事の都合で会えないことも多い。
 中川の家で伊世と二人で住んでは居るが、ほとんど独り暮らしをしているに近い。
 三和には理由があり、定期的に里帰りをするように実家から言われている。どんなに「嫁に来て、独立したから」と母親に口先で強がっていても、寂しい。だから、三和は己の感情に従い、実家に帰っている。けれども、里帰りしても、寂しさは消えないと気づいた。
どこにいても、ひとりぼっちという感覚は抜けない。
 三和の両親は、三和を甘えさせて、育ててくれた。だが、三和には、兄が居る。兄の方が、両親にいちばん愛されていると、三和は思うのだ。そうして、愛情も、三和より特別に集中していると思う。
 三和は、実家に帰ると習慣的に行うようになったことがある。それは、仏壇の前で、手を合わせることだ。祈る中身は決まっている。
 三和は、宗教とかで、自分の病気は治らないと思っている。また、両親が、自分が同性を好きなことを受け入れていないと知っている。だからこそ、中川伊世(異性)との結婚を喜んだ。また、三和が普通になるようにと思ってと三和は思うのだが、お寺などに、お金を納めて、病気が治る札をもらっている。
 最近、仲の良い、鈴家 志摩(スズヤ シマ)には、こう言われた。
『三和は、両親のこと、変にフィルターで考えすぎなんちゃうか。親は自分になんにも、望んどらん。計画的に自分を作ったんは確かやけど。ただ、元気でいることを望んでるだけやと思うで。あと、三和を受け入れることに困ってるから、そうして、宗教に頼ってるんちゃうか』と。
志摩の言う通りかもしれない。だが、三和は両親の考えは、いまいち読み取れない。
 三和は、いつも、実家に帰ると寂しくなる。夜中に、食べ物が食べたくなる。つい、冷蔵庫をあさって、食べ物を探してしまう。中川の家では、そんなことはしない。
 三和は、理由を考えるが、ただ、寂しいとだけ思う。三和が実家に帰るのは、薬の管理を父に任せているからだ。三和は、理由があり、今は病院の薬が手放せない。
だが、自分や中川では管理ができないと思っている。実家で、小分けの袋に日付別でいれてもらうことで、薬の飲みすぎを防いでいる。たまに、飲み忘れて、あわてて、1日分を昼間に飲んだりする。薬剤師や、担当医にはしかられそうだが、そうやって、自分で薬を調整している。
 実家にも、中川にも、紫舟さんにも内緒のことだ。父は、三和の薬の余りを離さない。三和の通っている、薬局の薬剤師が薬を引き取るという広告を出していた。
 三和は今でも薬を見ると不安になる。だから、薬局に余りの薬を持っていくと父親に言う。しかし、父親は薬を離さない。適当に誤魔化され、うやむやにされてきた。
 なぜ、わかってもらえないのだろう。と、三和は考えるが、するりと忘れてしまう。どうしたらいいのか。いつまでも、親が生きているわけではない。
 また、薬を親に預けていることで三和は親の支配下にあるような気がしている。そこから、なんとか抜け出したいと思っている。
 三和の考えすぎだろうか。紫舟さんと会うと三和は安心する。なぜだろうか、と思い返す。すると、ハグがあるからだと思う。
 三和の母親は身体接触を避ける。避けたがる。泣いていても、ハグはしてもらえた記憶がない。ハグをしに行くと、夏場だろうか「暑苦しい」という言葉があった。
 きっと、三和はこう思う。両親は、愛情をくれたかもしれない。だが、気迫に感じるのは、身体接触がなかったせいじゃなかろうか、と。
 三和は母に抱き締めて欲しいのだと振り返りながら、気づく。けれども、それをして欲しいと頼めないのだ。そして、母親が、夜中の三和の暴食をどう思っているのか、怖くて聞けないとも思う。今夜も三和は、寂しさで、食べる。そして、寝る前に自分で抱き締める人形を探すのだった。
 夜は長い。朝になれば、今夜の物思いも忘れているだろう。そう、三和は思いつつ、眠りにつく。

翌日--
三和は休みだった。久しぶりの休みなので恋人と会うつもりだった。けれども、三和の恋人、鈴家紫舟には、予定が入っていた。
 紫舟さんには、軍事マニアの妹さんが居る。その妹さんから頼まれて、中川に軍事演習のチケットを二人とってもらった。
 中川は、軍事演習の係員で仕事がある。
 紫舟さん曰く、妹の誘いで軍事演習を見に行く羽目になったらしい。紫舟さんも、共通の知人を妹一緒に行かせようと画策しているが、なかなか、そうもうまくいかない。寂しさを抱えながら、三和は帰宅した。